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とにかく、あれこれやってみる。

エロマンガは現代の北斎だ!

新潟名物ポッポ焼き!

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エロマンガにおけるレトリック分析  -溶解する日本語の豊穣性からの考察-

 本レポートの趣旨:通常アカデミックな美学的分析として扱われることが少ないエロマンガ、ことに今回はエロマンガの中でもロリコンエロマンガに焦点を当て、レトリック分析を試みる。対象を融通無碍に越境する美学の本質として立ち現れる日本語の豊穣性を善悪の彼岸から分析し、日本語というマンガに適した言語体系とマンガの文法、さらにオノマトペによって「地平の融合」の境界線すら溶かす極めて巧みに計算された性的鍵刺激的レトリックが施されていることを論証した。同時に性的なコンテンツゆえにレトリック分析の対象として禁忌扱いされる現状に抗する。エロマンガは現代の浮世絵であり、絵師たちは現代の北斎である。江戸の浮世絵のみに焦点を当て現代の極めて優れたエロマンガたちの超絶技巧を見て見ぬ振りをするアートワールドの、主に日本の芸術界の欺瞞を取り除くこともこうした研究を通じて行われねばならない。

 エンターテイメント産業における性的コンテンツはアカデミックな分野で扱われることはまだ珍しい。近年になり若者向けのライトノベルが文学的解釈学の俎上に載せられるようになったわけだが(久米)、それでもなお旧体制度に基づく文壇が認めた文学作品が解釈の主流である。文字テクストでないイメージを伴ったメディアであるマンガやアニメなどの性的描写はその直接性がゆえに、アカデミシャンの考察の対象とされることは極めて稀有だ。過去にはフランス文学者の澁澤龍彦や編集者の青山正明、現在ではエロママンガの歴史を扱う永山薫や、エロマンガ統計の牧田翠といったエロ・グロ・ナンセンスを扱う秀逸な研究も多数行われているが、その研究者は作家や編集者といった当時の、または現在においてもハイカルチャーからやや距離をとったアウトサイダーが担ってきた歴史がある。コンテンツ文化史学会などのサブカルチャーをアカデミズムの研究領域に移行させようという活動は時勢の潮流にあるとはいえ、その活動の中における日本のオタクカルチャーの、さらに赤裸々で直接的な性的コンテンツがアカデミックにレトリック分析をされる機会は極めて稀有だ。

 かなり直接的、または過激な性的描写は谷崎や大江、村上春樹などに多数見受けられる。文壇が認めた作家の文学作品におけるレトリック分析、またエロマンガ・アダルトゲームの歴史などの研究は多数なされているが、エロマンガそのものの、それ自体のレトリック分析はこれからその充実が望まれる分野である。

 今回はひとつの作品を通じて総覧的にエロマンガの「計算」された三大レトリック①キメラ美少女②オノマトペ③本物の声)とそれを成り立たせている日本語ならびに日本の文化的背景について考察する。日本におけるマンガ受容ならびにマンガの文法がなぜ日本で根付いたのかに関しては拙論文『クラリス・クライシス』における第5章 ロリコン的記号を参照せよ。今回はひとつの分析項目に対して詳細に論じることはせず、三大レトリックの外観の提示を行う。分析対象のテクストは一般的なエロマンガであり、「ペンギンハウス」に次ぐ歴史を有する「COMIC快楽天」の『COMIC快楽天 2015年11月号』に掲載されている『まくあいげき(Hamao)』を用いる。さて、早速エロマンガのレトリック分析を始める。

 ①キメラ美少女についてである。これはエロマンガに出てくる二次元美少女の計算された視覚的造形である。欲望の対象となる二次元美少女は線というマンガの描画コードに従い、自然界には存在しない輪郭線で明瞭に描かれ、視覚情報として私たちの認知機構に「なめらか」に「過剰」に認知され、増幅された快楽をもたらす。文化人類学的に顔は童顔で、身体は成熟した女性が文化圏を問わず好まれ、日本におていもそれは例外ではなく、むしろ世界でもその過剰さを積極的に楽しんでいる。これはインフラが整備され健康で豊かな社会においては全般的に見られる傾向であり、豊かで健康で安全な社会になればなるほど男性は童顔を好むようになる統計がある。それが空想の存在も現実と同等の「よすが」として扱う伝統とうまく噛み合った結果、現在の日本を中心とする線で描かれたロリコン文化が形成されている要因である。

 マンガのキャラクターは美的魅力として、顔の左右対称性や大きな目、小さい鼻や口といった幼児的傾向を有し、豊満な乳房や臀部、またくびれを併せ持つ。いずれも進化心理学的に庇護欲求を引き起こす信号と健康であり多産の身体的特徴を示す信号を宿している。生物には特定の行動を引き起こす鍵刺激というものがあるが、これら諸々のキメラ美少女の有する特徴は性的鍵刺激と言える。この性的鍵刺激を限界まで引き上げ、見事に調和させたのが二次元美少女である。これは、進化論的に生存上不利または生存できない造形表現も可能であり、作家が作家の好み、または受容者の好みを忖度して快楽刺激を極限まで引き出せるように作り上げられたキメラ美少女は極めて計算された表象であると言える(一ノ瀬、5-3 神経美学)。

 ②オノマトペについてである。言語学的・記号的「マンガの文法」以外にもマンガを成り立たせる日本語の言語的特徴が挙げられる。それが擬態語・擬声語(=オノマトペ)である。オノマトペは生活に深く入り込んでおり、日常会話をはじめ、万葉集や古今和歌集の頃から現在にいたるまで脈々と小説や短歌にも頻繁に使われている。小説や詩歌を味わう場合、感覚照応の効果を楽しむことも多い。感覚照応とは、複数のことばの間に相互作用つまり照応関係があることをいい、比喩の基礎ともなっている。たとえば強い光、高い周波数の音、鋭い触覚、砂糖の甘さなどはすべて「明るい」という視覚属性と照応関係などであり、日本語ではオノマトペが、母音や子音が直接大小、明暗などの感情表 現と照応関係にあり、また線や図形とも照応関係にある(苧坂、p.146)。さらにオノマトペは、 感情や心情など「心の状態」を示す感情表現に転化したと推定されるものが多く含まれる。ニコニコやキョロキョロなど明示的な表情や視線の動きにかかわるものは外部から観察できる動きとともに、ワクワクドキドキなどは外からは観察できない「心の情動の躍動」を示す感性表現に転化したものまで表現することができる(同書、p.148)。さらに、日本語のオノマトペは触 覚を基盤にする擬態語がとくに多く、これは日本人が触覚や皮膚感覚などに感受性が鋭いこと、さらに触覚的感性が日本文化の感性の基底にあることを示唆していることからも(同書、p.145)、 エロマンガの過激かつ過剰なオノマトペは性的鍵刺激として機能し、触覚的感受性に比較的優れた受容者を一層、深い禁忌の悦楽の世界へと没頭するように引き込む導入剤的役割を担っている。

 また、日本画の来歴として異時同時図法がある。これは異なる時間の場面を同じ一枚の場面に描く図法である。例としては、伴大納言絵巻の子どもの喧嘩のシーンが有名である(高畑、pp.84~86.)。マンガのコマ割りもまた異時同時図法の一種の変容として考えられる。近年では電子媒体もあるが、主に紙というメディアの制約上、同じページにコマというフレームで時間の流れを刻む。オノマトペは音と視覚的要素として異時同時図法、すなわち静止した画面に対して時間というクオリアをより強める効果をもたらす。「にゅぷ」、「ぐぷぷ」、「ぐちゅ」、「ぱちゃ」、「ビクッ」、「ぐりぐりぐり」、「れうっ」、「ドクン」、「ビュルルルーッ」など読解の際に脳内で「言語化」する時間分だけ、静止した一場面に時間の積層がもたらされる。今回分析対象とした十数ページほどのマンガの中においてでさえオノマトペの数は枚挙にいとまがない。さらに、そのどのオノマトペもが文字テクストだけでは還元され得ないクオリアを有している。上記に言及したオノマトペは全て活字ではなく、作家の手描きで色・形・大きさ・位置・吹き出し上のものに入れる、など巧みにデザインされている。「ビュルルルーッ」はますます「ビュルルルーッ」というクオリアを文字として、あたかもそれ自体が一つの絵画であるかのように、象形文字がごとき表象で視覚的に描される。他のオノマトペ、「にゅぷ」、「ぐぷぷ」なども同様だ。オノマトペもまた現実には存在しない「過剰」な性的鍵刺激を受容者に付与し、実際にその場にいるかのような、あたかも自らでキャラクターに憑依し、体験しているかのような差し迫る臨場感を与える。




 ③本物の声についてである。一般的にポルノに関して女性は視覚的な男性よりも文学的に受容するとされる。女性が視覚的な実写のアダルトビデオを好まない理由は、精神的なつながりに性の重点を置くためであることもあるが、演者の女性の内面が見えず、いやいややらされているのか、本気で楽しんでいるのか定かでないためだという(守)。しかし、この内面の問題についてマンガはその文法によって、女性、または登場人物の内面を読者に確実に伝えることができる。それが吹き出しであり、本テクストのp.7、p9.、p.10.、p.16.に見受けられる男性キャラクターの特殊吹き出しである。通常のエロマンガにおいては女性の側の内面における「本物の声」が描かれる。当然、そのシーンのみでなく、1ページからのセリフなどで男性キャラクターと女性キャラクターが相互に信頼し合っている関係は容易に推察され、終幕における「結婚してよ」という女性キャラクターの言葉でその信頼関係の確からしさは一貫する。「本物の声」に敏感な主に女性の読者もオチを見てからであれば安心してその世界に没入することができるだろう。統計的に女性は実写のポルノはそれほど見ないが、エロマンガや文学に関してはかなり受容しているのだ(同書)。またとりわけ男性にとっても女性が性的興奮を感じていると感じることは男性の性的快楽を増幅させるため、このマンガの文法は日本のマンガ受容者の男女双方にとって作品世界に没入させる重要な要因である。とはいえ、今回、本テクストがレトリックの点において極めて秀逸な点は女性の「本物の声」が性行為中において一度も表現させられていないことである。pp.12~14.にかけての女性キャラクターの表情のみで女性の「本物の声」を伝えている点が作家の超絶技巧であると言えるだろう。

 この三大レトリックが全て集積された典型的な場面がp15.のクライマックスシーンである。「ドプッ」というドロドロであり飛び散るかのようにデフォルメされたオノマトペを瞬間的に把握させられる。全体として飛び散る体液が描かれ、初めに女性キャラクターの「ふーっ」、「ふーっ」という息遣いと筆触の異なる白い吐息、こちらを見つめる視線とその目からこぼれ出る感涙、と口元の唾液または精液との判別がつかぬ描写、向かって女性の左耳近くの声ならぬ声と赤く紅潮した耳が斜線の記号に視覚が誘導されたのち、生命の神秘そのものであるコンドームを装着しない膣内射精へといたる。モザイクで隠された陰部から出る大量の精液を「ビュルル」という音を5回も重ねるオノマトペを言語化しながら、女性器から心臓にまでいたる射精の振動・波動の衝撃波の描線に自らの射精を重ねる男性読者は多いだろう。細い線で多数描かれる集中線がそこに意識の焦点を誘導する。その後、女性の左腕(向かって右腕)、左脇腹(向かって右脇腹)において汗と衝撃と体液とが一体化し溶ける身体が演出される。「愛とは「軟化」(amollissement)そして「液化」(liquéfaction)であると指摘したのは,ジャン=ピエール・リシャールです(工藤、p.154.)」と工藤は指摘しているが、溶ける身体描写に愛の快楽が託されていると捉えることできる。女性キャラクターの右足を抑える力強い男性キャラクターの左手、男性のシャツからのぞく微妙な陰毛と女性キャラクターの陰毛は現実的で臨場感を掻き立てる。このいずれのファクターの要素それぞれが性的鍵刺激であり、巧みに計算され配置された結果、私たちの快楽を増幅させる効果を及ぼす。

 以上、エロマンガにおける三大レトリックの外観を分析した。

 最後にリービ英雄も指摘する日本語の特殊性と閉鎖性に関して付言しておく。芸術作品は受容者の「解釈レベル」を要求する。文学、マンガなどの活字系メディアは受容者の積極的コミットを要求する、映画、絵画、彫刻は目を開き、音楽は耳をすませばいい。しかし、芸術作品の感動のクオリア、「深奥性」は受容者が解釈できればできるほど「深く」大きなものになる。その事実を鑑みた場合、今回の分析対象である日本のエロマンガは、オノマトペも含めて非日本語使用者にとって閉鎖的である可能性がある反面、日常の日本語ネイティブの話者にとっては極めて豊穣なクオリアを与えるということだ。しかし、欧米語の話者でなくとも欧米の世界文学が解釈できるように、日本語話者でなくとも日本のマンガを解釈することはできる。ロッテの吐息、ソーニャの接吻、セーラームーンの決めポーズは音楽と真理と同じく国境を越える。海外に居住する者、また生まれながらに日本に居住する者ならびに、これから日本の文化コンテンツを海外に発信しようとする者にとって、日本で育まれたエロマンガが成り立つ来歴を理解することは日本文化そのものを知ることに等しい。今後の日本の文化ソフトコンテンツ輸出に際し本レポートがその一助となれば幸いである。

参考文献

一ノ瀬健太『クラリス・クライシス』2015年

https://web.archive.org/web/20160120023210/http://renaissanceman.jp/iccchiiiiii/clarissecrisis.pdf

一柳廣孝、久米依子『ライトノベル・スタディーズ』青弓社、2013年

苧阪直行『小説を楽しむ脳』新曜社、2014年:a

工藤庸子『恋愛小説のレトリック -『ボヴァリー夫人を読む』』東京大学出版会、1998年

永山薫『増補 エロマンガ・スタディーズ 「快楽装置」としての漫画入門』筑摩書房、2014

牧田翠『シリーズ総集編 エロマンガ統計STARS2014

守如子『女はポルノを読む -女性の性欲とフェミニズム』青弓社、2010年

苧阪.p145 苧阪p146 苧阪p147 苧阪p148 高畑p84 高畑p85 高畑p86 工藤p154

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