【小噺】サウナで陛下のおことばを拝聴した話
天皇陛下のおことばを富士吉田市の温泉サウナで聞いていた。
サウナで聞いたのは、偶然だった。今日、陛下のお言葉が放送されるのは知っていたが、後でニュースまとめで読めばいいと思っていた。リアルタイムに拝聴する気は無かったのだが、運命はいたずらなキスであり、天使だ。
たまたまぬるめの露天風呂から上がり、サウナに入って10分ほど経った時に放送がはじまった。
一番上段の席に陣取った。高温で激アツなゾーン。
一緒にサウナに入ったのは、友人のAとB。
友人Aは天皇陛下万歳主義者であり、”恋闕”をよく語り陛下のためならよろこんで死ねると語る。一方の友人Bは京大出の極左である。ちなみに自分は日和見の王道中道主義者である。
思想が真逆な三人であるが、しばしば世の中の大半がそうであるように仲がいい。呉越同舟でもなく、思ったことが言い合える言論の自由が担保された素晴らしい関係を構築している。三人とも君の言うことには反対だ。しかし、君がそう語る権利は死んでも守ろう!とするヴォルテール主義者であることは共通している。
さて、陛下のお話である。うっすらラベンダーの香りがするサウナに入るや、友人Aは、静聴せよ~!静聴せよ~!と訴える。
「俺は陛下のお言葉が終わるまで絶対にサウナから出ない!徹底的に拝聴する!お前らも聞き終わるまで出るな!」
と力説する。正直もう、すでに限界に近かったが、まぁ、やばくなったらすぐ出るつもりで…
わかった。わかった。と俺はサウナ内に設置されている砂時計を回した。砂が落ちる。時が刻まれる。1本10分勝負の追加である。
さて、陛下のお言葉を拝聴して、5分ほど経ったであろうか、友人Aがソワソワしだした。ぶつぶつ、熱い。熱い…とつつぶやいている。
鼻呼吸すると花の穴が火傷しそうになる。
まだ若干の余裕のある自分は「お前の陛下への愛が試されるな」とキツい中で皮肉を言った。
しかし、言い出しっぺであるがゆえに、出て行くわけにもいかない。そうこうつぶやいていると、俺は耳を疑った。
「長い…長い…長い…」
…と小さくつぶやき続けている。こいつw普段から天皇陛下万歳とか言っちゃってるやつが、陛下の誠心誠意のおことばを「長い…長い」だとw
挙げ句の果てには「終われ…終われ…」とまでつぶやいている。確かに熱い。先の見えない、ゆっくりした話に、校長先生のお話的なクオリアを感じるのも仕方ない。
だが!だがしかし!陛下にそのことばはないだろうwと思っていた矢先…
「まぁ、陛下を思う気持ちが一番大事だしな。知ってるか?これ収録なんだぜ?」
はぁ~~~~~!!???まぁ?って何?陛下を思う気持ちは大事だけど、それ全然思ってないでしょ~~~!!しかも、それ逃げの枕詞になってませんからぁ~~~!!!収録なんだぜ??って、タッチじゃないんだから、もう動かないんだぜ?それ…って、全然なんかもうこっちも熱で突っ込むのがめんどいわ~~~!
「後で見るわぁ~」とさっきまでサウナ前の水飲み場の水でキンキンに冷やしたタオルを頭に乗せて余裕をぶっこいていた人間が木の取っ手を押して「あツゥ!」と言った。ドアから一瞬、涼風が炎熱を奪い、頬を撫でた。
友人Bは黙って陛下の話を聞いていた。
「お前は出ないん?」
「まぁ、熱いけど…せっかくだから…」
…とそのまま+5分間陛下のお言葉を一緒に聞き続けた。
更衣室で、ちょwお前wまじで天皇語んなよwと友人Aをディスっていると、友人B曰く、
このスピード・スピード・スピードのご時世、陛下の言葉が大変ゆっくりで今の世に珍しかったこと。
おじいちゃんが可愛くて聴き入ってしまったこと。
今も天皇制には反対だが、歴史の”厚み”のこもったことばに敬意を抱き、泣けた的なことを友人Aにとうとうと語っていた。
あぁ、これではまるで司馬遼太郎じゃないか。日露戦争物語だ。
友人Aは戦闘が始まったら頭を出して尻隠さず、友人Bは普段、いじめられっ子、なのに戦闘中も黙々と弾薬を詰める。葉公、竜を好む。
母は陛下のおことばを聞木、日本人であることに誇りを感じたという。皇室の知識についても教養もないわが母にも、陛下のお言葉は沁みた。源氏物語で最も尊ばれるのは”知識”でなく、”もののあはれ”だ。万葉から平成の今にいたるまで蛍を尊ぶ心こそが最も教養的とみなされてきた。
本日、わが母は教養人であった。
越後スター・いっちー、陛下に愛を込めて。
そうそうとサウナを出て、マッサージ機に腰掛ける友人A。。。
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